人を採用しても、しばらくすると辞めてしまう。教えているのに、期待したようには育たない。結局、社長や一部の社員が不足分を埋め続ける。
この問題が続くと、本人のやる気、上司の指導力、採用した人を見る目のどれかが悪い、という話になりがちです。
でも、少し分けて考えた方がいい気がします。
人が悪いのではなく、人と仕事の組み合わせが悪いこともあるからです。
私は、自分自身の仕事の仕方を見直すために、性格検査の結果、情報の扱いやすさ、実際の業務記録を合わせて見るようにしています。そこでよく使う材料の一つが、HEXACOという性格の見方です。
ただし、HEXACOで優秀な人を判定できる、という話ではありません。むしろ逆です。性格に優劣を付けるのではなく、どんな条件なら力を出しやすく、どんな条件では事故が起きやすいのかを考えるために使います。
まず「採れない」「辞める」「育たない」を分ける
人材の問題は、一つに見えて原因が違います。
2026年に帝国データバンクが経営層・管理職へ行った調査では、「人材強化」が90.2%で最も多い経営課題でした。ここには採用、定着、育成などが含まれます。多くの会社が人の問題を抱えていること自体は間違いありません。帝国データバンク「企業の経営課題に関するアンケート(2026年)」
ただ、「人が採れない」と「採った人が辞める」と「教えても育たない」は、別の問題です。
- 採れない:待遇、知名度、採用経路、仕事内容の見せ方、候補者の母数
- 辞める:仕事、会社、上司、働き方との相性、期待と現実の差
- 育たない:仕事の分け方、教え方、確認方法、裁量の渡し方、必要な知識
HEXACOで直接考えやすいのは、主に後ろの二つです。
応募者が来ない会社で性格検査を増やしても、応募者は増えません。そこは採用条件や採用経路の話です。
一方で、採用後のミスマッチや、同じ教え方をしても人によって伸び方が違う問題には、性格と仕事の条件を分けて見る意味があります。
HEXACOは、人の性格を六つの方向から見る方法
HEXACOは、人の性格傾向を六つの大きな方向から捉える考え方です。
- 誠実さ・謙虚さ
- 情動性
- 外向性
- 協調性
- 勤勉性
- 新しい経験への開放性
この六つをさらに細かい特徴へ分けて見ます。たとえば勤勉性の中でも、整理整頓が得意か、地道に働き続けられるか、細部を詰めるか、慎重に判断するかは同じではありません。
ここが結構大事です。
「この人は真面目だ」「この人は大雑把だ」という一言では、仕事上の強みと弱みが混ざります。長時間集中して働ける一方で、定型的な記録や整理を後回しにする人もいます。細部を丁寧に確認する一方で、判断に時間がかかる人もいます。
性格を一つのラベルにせず、どの条件で何が起きやすいかへ分解する。そのための材料としてHEXACOは使えます。
HEXACOの六因子は、複数言語の性格語彙研究から確認された構造をもとに提案されています。詳しくは、開発者の公式サイトと論文で確認できます。HEXACO公式サイト、Ashton & Lee(2007)
見るべきなのは性格の点数ではなく、仕事との相性
性格検査で一番危ない使い方は、点数だけを見て人を良い・悪いに分けることです。
会社が必要としているのは、「最も高得点の人」ではありません。
その仕事、そのチーム、その管理方法の中で、安定して成果を出せる人です。
人と仕事、人と組織の相性は、仕事への満足、成果、離職行動などと幅広く関係することが、複数研究をまとめた分析でも示されています。ただし、相性だけですべてが決まるわけではありません。給与、上司、働く時間、事業の将来性なども普通に効きます。Kristof-Brown, Zimmerman & Johnson(2005)
だから、性格検査は結論ではなく仮説です。
たとえば、新しいことを考える力が強く、変化のある仕事を好む人へ、毎日ほぼ同じ確認作業だけを渡し続けたら、能力が低いというより、仕事との相性が悪い可能性があります。
逆に、決まった手順を丁寧に守れる人へ、前提が毎日変わる曖昧な新規事業を丸ごと任せれば、かなり負荷が高くなるかもしれません。
どちらが優秀かではない。役割が違います。
私は性格だけでなく、実際の業務記録を合わせて見る
性格検査だけでは、仕事の設計までは決められません。
本人がどう答えたかと、実際に仕事で何が起きたかは分けて確認する必要があります。自己評価には、その時の気分や自分を良く見せたい気持ちも入ります。
私は自分自身について、次の情報を合わせて見ています。
- 性格検査で出た傾向
- 目や耳から入る情報の扱いやすさ
- 複数の条件を頭に置く仕事が得意か
- 実際に何へ時間を使ったか
- どんな仕事を後回しにしたか
- どこで判断が止まったか
- どの仕事では成果が早く出たか
性格では「勤勉」と出ていても、管理表の更新が続かないことはあります。
そこで「勤勉ではない」と結論づけるのではなく、もう少し細かく見ます。
新しい問題を解く仕事なら長時間続くのか。定型作業だけ止まるのか。入力項目が多いと止まるのか。完了の基準が曖昧だと止まるのか。誰かへ報告する意味が見えないと止まるのか。
ここまで分かると、本人を責めるより先に、仕組みを変えられます。
入力項目を減らす。作業の終了時に自動で記録する。期限が来たら通知する。確認する人を決める。自由に考える仕事と、定型運用の仕事を分ける。
性格を変えようとするより、こちらの方が早いことはかなりあります。
性格を仕事の設計へ変える五つの手順
実務で使うなら、次の順番が分かりやすいと思います。
1. 仕事の条件を言葉にする
最初に人を見るのではなく、仕事を見ます。
- 正解が決まっているか
- 前提が頻繁に変わるか
- 人との交渉が多いか
- 細かい確認が多いか
- 一人で集中する時間が必要か
- 毎日同じ手順を繰り返すか
- 判断の速さと正確さのどちらを優先するか
「営業ができる人」のような曖昧な採用要件ではなく、その仕事で必要な行動まで分けます。
2. 性格検査から、起きそうな摩擦を仮説にする
点数を評価に変えず、仕事上の仮説へ変えます。
たとえば、「細部の確認を長時間続ける仕事では疲れやすいかもしれない」「対立のある交渉では力を出しやすいかもしれない」「曖昧な指示だけでは着手しにくいかもしれない」といった形です。
この時点では、まだ仮説です。
3. 実際の仕事と記録で確かめる
過去の成果、作業時間、手戻り、期限遅れ、相談内容、本人の感想を見ます。
予測と実際が違えば、性格検査の読み方か、仕事の理解が間違っています。人間を点数へ合わせない。現実に合わせて仮説を直します。
4. 人ではなく、仕事の渡し方を変える
変えられる条件は意外と多いです。
- 口頭だけでなく文章や図でも渡す
- 一度に渡す条件を減らす
- 確認の頻度を変える
- 裁量を増やす、または判断基準を先に決める
- 定型作業を自動化する
- 得意な人と役割を分ける
- 成功例と失敗例を検索できる形で残す
属人化を減らす方法については、業務の属人化を解消する方法でも詳しく書いています。
5. 期限を決めて、成果と負荷を見直す
仕事の渡し方を変えた後は、一定期間で見直します。
成果だけでなく、本人の負荷、手戻り、相談回数、周囲が補った時間も見た方がいい。
少し成果が上がっても、上司が毎日二時間補助しているなら、会社としては改善していません。
人を育てることと、誰かが不足分を永久に埋めることは別です。
HEXACOでやってはいけないこと
性格検査は便利ですが、使い方を間違えると普通に危ないです。
- 一回の検査だけで採用・不採用を決める
- 高い点数を善、低い点数を悪と扱う
- 性格から病気や発達特性を診断する
- 本人へ説明せず、裏で評価に使う
- 実際の仕事の成果を見ず、検査結果を正解にする
- 会社側の悪い仕事設計を、本人の性格のせいにする
採用で使うなら、構造化した面接、実際に近い課題、過去の行動例、必要な技能の確認などと組み合わせるべきです。
また、公式のHEXACO質問票は、非営利の学術研究以外で使う場合、開発者への連絡が必要と案内されています。会社で正式に使うなら、利用条件も確認した方がいいです。HEXACO公式の利用案内
人を変える前に、仕事の設計を見直す
人が辞める。育たない。成果が安定しない。
その原因が本人の努力不足である場合もあります。ただ、毎回そこへ結論を置くと、会社側の問題が残ります。
仕事が曖昧すぎる。情報の渡し方が一つしかない。得意不得意を無視して同じ管理をする。判断基準が上司の頭にしかない。定型作業を人間の注意力へ任せている。
この状態で人だけを入れ替えても、次の人が同じ場所で止まる可能性があります。
性格検査の役割は、人の価値を決めることではありません。
人がどんな条件で力を出しやすいかを考え、仕事、配置、教え方、仕組みを見直すことです。
私は自分自身についても、性格と実際の業務記録が違えば、記録の方を見ます。性格の説明がきれいでも、仕事が回っていなければ意味がないからです。
会社の行動を記録し、実際に何が起きているかを見る方法については、データを会社の学習装置に変える話でもまとめています。
人を採る前、辞めた後、育たないと感じた時。本人の評価だけで終わらせず、仕事の設計まで戻ってみる。そこから直した方が、同じ問題を繰り返しにくくなります。
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