Zillizの日本チームと、Milvus・AI検索について意見交換しました
2026年9月1日、Zilliz(ジリズ)の日本チームの皆さまと、オンラインで意見交換を行いました。Zillizは、オープンソースのベクトルデータベース「Milvus」の開発を主導し、そのマネージドサービスである「Zilliz Cloud」を提供している企業です。
Milvusは、生成AIが回答を作るための大規模言語モデルそのものではありません。生成AIが回答する前に、大量の文章や画像などから質問に関係する情報を探し出すための検索基盤です。
今回のミーティングでは、株式会社BeekleがAI検索やRAGの開発においてMilvusをどのように利用しているかを、公開可能な範囲で説明しました。
そのうえで、検索機能の使い分け、システム構成、運用方法などについて、担当者の方からさまざまなアドバイスをいただきました。
また、Milvusだけでなく、マネージドサービスのZilliz Cloud、顧客自身のクラウド環境を利用するBYOC、日本国内で受けられる技術支援についても詳しく伺いました。
ブログへの掲載も快諾いただいたため、まずZillizとMilvusの関係を整理したうえで、今回伺ったサービスと支援内容を紹介します。
Zillizとは
Zillizは、AIアプリケーション向けのベクトル検索・データ基盤を開発する企業です。オープンソースのベクトルデータベース「Milvus」を生み出し、その開発を主導するとともに、Milvusをフルマネージドで利用できる「Zilliz Cloud」を提供しています。
名称が似ているため、関係を整理すると次のとおりです。
- Zilliz:Milvusを開発し、クラウドサービスや技術支援を提供する企業
- Milvus:自社のサーバーやクラウドにも構築できる、オープンソースのベクトルデータベース
- Zilliz Cloud:Milvusを基盤に、構築、拡張、監視、保守などをZillizが管理するクラウドサービス
Milvusを利用するだけであれば、オープンソース版を自社で構築できます。一方、本番環境では、検索性能の調整、サーバーの拡張、監視、バックアップ、更新、障害対応など、データベースを継続的に運用する仕事も発生します。Zilliz Cloudは、Milvusの検索機能を利用しながら、こうした運用負担を減らすためのサービスです。
つまり、Milvusがデータベース本体、Zillizがその開発会社、Zilliz Cloudが商用のマネージド版という関係です。
Zillizは、オープンソースソフトウェアを公開するだけでなく、クラウドでの本番運用、企業向けの導入方式、技術支援まで含めて、AI検索を実用化するための基盤を提供しています。今回お話ししたのは、そのZillizの日本チームの皆さまです。
Milvusとは
Milvusは、Zillizが開発を主導するオープンソースのベクトルデータベースです。文章、画像、音声などの特徴を「ベクトル」と呼ばれる数値の並びとして保存し、意味や特徴が近いデータを高速に検索します。
一般的な検索との違い
一般的なデータベースやキーワード検索は、入力した文字列や条件に一致する情報を探すことが得意です。一方、利用者が入力する言葉と、文書に書かれている言葉が一致するとは限りません。
たとえば、利用者が「契約をやめる手続き」と質問したとき、文書側には「解約方法」と書かれているかもしれません。単純な文字列一致では見落とす可能性がありますが、ベクトル検索では両者の意味の近さを計算し、関連する情報として探し出せます。
この検索を実現するために、文章などをEmbeddingモデルで数値化します。Milvusは、そのベクトルを保存し、検索しやすい索引を作り、質問に近いデータを返す役割を担います。
RAGの中でMilvusが担当すること
RAGは、社内文書やマニュアルなどから質問に関係する情報を検索し、その内容を生成AIへ渡して回答を作る仕組みです。
基本的な流れは次のとおりです。
- 文書を検索しやすい単位に分割する
- 分割した文章をEmbeddingモデルでベクトルに変換する
- ベクトルと元の文章をMilvusへ登録する
- 利用者の質問も同じ方法でベクトルに変換する
- Milvusが質問に近い文章を検索する
- 検索結果を生成AIへ渡し、根拠に基づく回答を作る
つまり、生成AIが文章を作る部分と、根拠となる情報を探す部分は別の処理です。Milvusは後者を担当します。
ベクトル検索だけではない
Milvusは、意味の近さを使うベクトル検索に加えて、メタデータによる絞り込み、BM25を利用した全文検索、複数の検索方法を組み合わせるハイブリッド検索などにも対応しています。
意味の近い情報を広く探したい場合はベクトル検索、製品番号や専門用語を正確に探したい場合は全文検索、部署や期間などを限定したい場合はメタデータによる絞り込みを組み合わせます。
文章だけでなく、画像や音声などをベクトル化して検索できるため、RAG、セマンティック検索、類似画像検索、レコメンデーション、マルチモーダル検索などの検索基盤として利用できます。
また、Milvusはクラウドネイティブな分散構成に対応しており、データ量やアクセス数の増加に合わせて検索基盤を拡張できるよう設計されています。
BeekleにおけるMilvusの活用
Beekleでは、AI検索やRAGを設計・開発する際の検索基盤としてMilvusを利用しています。
システムを設計するときは、すべての情報を一つのデータベースに集めるのではなく、データの性質や検索目的に応じて技術の役割を分けます。Milvusは、その中で意味の近い情報を探すための検索を担います。
今回のミーティングでは、こうした基本的な使い方や運用上の考え方をZillizの皆さまへ共有しました。
担当者の方からは、Milvusが備える検索機能やデータ管理機能、それらを活用する際の考え方について説明をいただきました。普段利用している製品について、開発元のチームと直接意見交換できたことは貴重な機会でした。やはり開発元だけあって、こういう使い方もできる、と的確なアドバイスをもらい、ありがたかったです。
なお、この記事では顧客の業界、用途、データ、システム構成など、個別案件を推測できる情報は掲載していません。
RAG案件における本番運用の課題
今回のミーティングでは、BeekleとZillizの双方で、RAGはPoCを構築することよりも、本番環境で継続して運用することの方が難しいという認識を共有しました。
限られた文書を使ったPoCであれば、比較的短期間で形にできます。一方、実際の業務で長期間使い続けるには、検索機能を作るだけでは不十分です。
本番運用では、主に次のような課題が発生します。
- データの追加、更新、削除
- ナレッジの陳腐化
- 新旧バージョンの管理
- Embeddingの再生成
- 元データとの対応が失われた孤立ベクトルの処理
- 検索精度の継続的な評価
- 障害発生時の復旧
- 権限管理とマルチテナントへの対応
- セキュリティ審査への対応
- データ量やアクセス数が増加した際のチューニング
- 顧客自身のクラウド環境やVPCへの配置
たとえば、元の文書を更新したにもかかわらず古いベクトルが残っていると、生成AIが古い情報を根拠として回答する可能性があります。データが増えれば、検索精度や応答速度が当初と同じ状態を保てるとは限りません。
そのため、本番環境では、単に「質問に対して回答できるか」だけでなく、データの鮮度、検索精度、権限、性能、障害時の復旧可能性を継続して管理する必要があります。
Beekleからは、過去の顧客とのやり取りにおいて、開発会社の選定基準として、「PoCを作れること」よりも「本番運用中の障害や検索精度の劣化に対応できること」が重視された事例を共有しました。
RAGはPoCまで進んでも、本番導入や継続運用まで到達しないケースがあります。そのため、顧客側も、試作品を作れるかだけではなく、データの追加や更新が続き、利用者が増え、問題が発生した後も運用を継続できるかを見ています。
Zillizの皆さまからは、日本でのローカルサポート体制を強化しており、MilvusやZilliz Cloudを本番環境で利用する際の技術相談やトラブルに対応できることが説明されました。
海外発のデータベース製品では、本番運用中に問題が起きた際、日本語で開発元へ相談できるかどうかが導入判断に影響します。Zillizは、日本チームによる技術支援を、本番運用を支えるうえでの差別化要素の一つとして位置づけています。
こうした本番運用の負担を軽減する選択肢の一つが、Zilliz Cloudです。この話を聞いて、これは黎明期のAIエージェントのシステムにおいてかなり安心だなという感想を抱きました。
Milvusをマネージドで利用できるZilliz Cloud
Milvusはオープンソースなので、自社で環境を構築して運用できます。
一方、本番環境では、監視、バックアップ、バージョンアップ、性能調整、障害対応など、データベースそのものの運用も必要になります。
Zilliz Cloudは、Milvusを基盤としてZillizが提供するマネージドサービスです。
自社ですべてのインフラを管理する代わりに、Zillizが提供する運用基盤やサポートを利用できます。
たとえば、次のような場合に選択肢になります。
- AI検索を検証だけで終わらせず、本番運用したい
- データ量や利用量の増加へ対応したい
- ベクトルデータベースの保守負担を減らしたい
- 性能や運用について開発元の支援を受けたい
オープンソース版を自社で運用する方法と、Zilliz Cloudを利用する方法のどちらが適しているかは、システムの規模、社内の運用体制、セキュリティ方針などによって変わります。
顧客自身のクラウド環境を利用するBYOC
今回のミーティングでは、Zilliz CloudのBYOCについても紹介していただきました。
BYOCは「Bring Your Own Cloud」の略です。顧客自身が契約しているクラウドアカウントやネットワークを利用しながら、Zilliz Cloudの管理機能や運用支援を受けるための提供形態です。
通常のSaaSへそのままデータを預ける構成とは異なり、自社のクラウド環境やネットワーク方針に合わせて導入を検討できます。
そのため、次のような要件を持つ企業にとって、有力な選択肢になり得ます。
- データを自社管理のクラウド環境に保持したい
- 既存のネットワーク構成へ組み込みたい
- クラウドやリージョンに関する社内基準がある
- 自社環境でのデータ管理と、マネージド運用を両立したい
BYOCの詳細は、Zilliz Cloudの公式ドキュメントで確認できます。
日本チームによる技術支援
今回のミーティングでは、Zillizの日本チームへ、導入や提案に関する技術支援を相談できることも伺いました。
支援内容として、次のような選択肢が紹介されました。
- MilvusやZilliz Cloudに関する技術相談
- 導入前後のトレーニング
- 技術ワークショップ
- 顧客への提案時における技術支援
- 初期導入時の構成検討
海外発のデータベース製品では、日本語で技術的な相談ができる窓口の有無が、本番導入や継続運用の安心感に影響します。
製品を開発する企業の日本チームと直接相談できることは、MilvusやZilliz Cloudを顧客へ提案するうえでも重要な利点だと感じました。
今後について
今回のミーティングでは、製品や技術についての情報交換に加え、今後の協力可能性についても話しました。
Beekleは、顧客の業務とデータを整理し、AI検索やRAGを設計・開発・運用する立場です。Zillizは、MilvusとZilliz Cloudという検索基盤に加え、開発元としての技術知識と運用支援を提供しています。
それぞれの役割を組み合わせることで、システムの要件や運用体制に応じた提案の幅を広げられる可能性があります。
現時点で、正式なパートナー契約などを発表するものではありません。今後、具体的な内容が決まった際には改めてお知らせします。
Zillizの皆さま、貴重なお時間と情報をご提供いただき、ありがとうございました。