兼任情シスは「判断・知識・責任」の3つで孤独になる
IT専任者ゼロの中堅企業で、総務・経理・経営企画と兼任で情シス機能を担っている担当者は、3つの孤独を抱えている。判断の孤独(ベンダーの提案が妥当か社内で判定できる人がいない)、知識の孤独(自社の技術選定が業界標準と合っているか確認する相手がいない)、責任の孤独(システム障害・セキュリティ事故が起きた時、一人で矢面に立つ)。
3つの孤独は、社内採用では解消されない。専任のIT責任者を雇うコストは年1000万を超える。社内異動も、適性のある人材が確保できない。現実的な解は「外部相談役を月数万円から確保する」だ。本記事では、ベンダーと相談役の違い、相談役の探し方、契約形態、期待値設計を整理する。
ベンダーと相談役は別の役割
多くの兼任情シスが、ベンダーを相談役の代用にしようとして失敗する。ベンダーは「自社の製品・サービスを売る」立場であり、自社製品に不利な助言はできない。「このシステム、本当に必要ですか」「うちの提案より、A社の方が向いていますよ」という助言は、ベンダーから出ない。出たら逆に不誠実だ。
相談役は、特定の製品・サービスに紐づかない立場で助言する役割だ。判断軸の整理、ベンダー提案の妥当性チェック、業界標準との比較、トラブル時の対処方針。「売り物がない」立場の人を確保しておくことが、判断の質を担保する。
ベンダーと相談役を一人で兼ねさせない、というのが最初の原則だ。仮にベンダーの担当者が個人として優秀で信頼できても、その人が所属する会社の利益と一致しない助言を求めるのは、職業倫理的にも難しい。
相談役の探し方
外部相談役の候補は、いくつかのパターンがある。独立コンサルタント(元SIer・元事業会社のIT責任者で独立した個人)、小規模のITコンサルティング会社(5〜20名規模、特定業種に強い会社)、SIerの「顧問契約」プラン(売り物を持つが、顧問業務として分離している会社)。それぞれメリット・デメリットがある。
独立コンサルタントは、月額3〜10万円程度から契約できる柔軟性がある一方、その人個人の知見に依存する。引退・体調不良で関係が切れるリスクがある。小規模ITコンサル会社は、組織として知見を持つ安心感があるが、月額10〜30万円と単価が上がる。SIerの顧問プランは、技術的な深さがある一方、自社製品への誘導バイアスをゼロにはできない。
最初の選び方の軸は「自社の業種に近い案件を、過去3年以内に3件以上見ているか」だ。業種が違うと、業界特有のシステム要件・規制・取引慣行が分からず、助言の精度が下がる。業種一致は、技術スタックの一致より重要度が高い。
契約形態と費用感
契約形態は、月額固定の顧問契約が標準だ。「月◯時間以内の相談」を契約し、相談しなくても固定費を払う形。月3〜5万円(月2〜3時間)、月10〜15万円(月5〜8時間)、月20〜30万円(月10〜15時間)の3水準が現実的なレンジになる。
従量課金や時間単価制も選択肢になるが、兼任情シスにはお勧めしない。理由は「相談しないことが多い」からだ。月額固定だと、相談コストを気にせず気軽に質問できる。従量だと「相談すると追加費用が発生する」と思って質問をためらい、結局相談役を活用できなくなる。月額固定は、相談する権利の確保コストだと割り切る。
契約期間は、最初は6ヶ月から1年で始める。3ヶ月は短すぎて相手も自社の事情を把握しきれない。2年以上の長期契約は、合わない相手と縁が切りにくい。年単位で見直す前提で組むと、双方が緊張感を保てる。
期待値設計
外部相談役に「何でも答えてくれる人」を期待すると、ほぼ確実に失望する。相談役は、自社の業務・システム構成・社内政治を細部まで知っているわけではない。即答できる範囲は、業界一般の知見と類似事例の比較が中心だ。
期待値は3つに整理する。第1に、ベンダー提案の妥当性チェック。提案書を共有して「金額感は妥当か」「スコープに抜けはないか」「他社事例と比べて何か違和感はあるか」を聞く。第2に、判断軸の整理。社内で複数案が出た時に「どちらが筋がいいか」を客観視点で聞く。第3に、トラブル時の初動相談。障害・事故が起きた時に「最初の3時間で何をすべきか」を聞く。
これら3つに期待値を絞ると、月数時間の契約でも十分に価値が出る。「自社のシステムを設計してもらう」「運用業務を代行してもらう」のような期待を持つと、月数十万でも足りない。それは別の発注(SIer・MSP)になる。
最初の相談で確認すべきこと
最初の3ヶ月で、相談役との相性を見極める。確認ポイントは3つ。第1に、自社の事情を聞いてくれるか。最初の打ち合わせで「御社のビジネスモデル、業務フロー、現在の課題」を1時間かけて聞く相手は、長期的に信頼できる。いきなり「うちのお勧めの構成は」と語り始める相手は、テンプレ回答に走る傾向がある。
第2に、自社に不利な助言ができるか。「今やる必要はないですね、来年でいいですよ」「この投資は止めた方がいい」のような、相談料の継続性に反する助言が出るかを見る。出る相手は信頼の蓄積が早い。第3に、知らないことを「知らない」と言えるか。すべての領域に詳しい相談役はいない。知らない領域で知ったかぶりをする相手は、後で大きく外す。
日常の使い方
外部相談役を一番活用できるのは、ベンダーからの提案を受け取った直後だ。提案書をPDFで送り、「金額・スコープ・契約条件で気になる点を15分で教えてください」と聞く。15分のレビューで、提案の弱点が見えるケースが多い。
もう1つの活用シーンは、社内の意思決定前だ。経営層への稟議を出す前、複数案で迷っている時、判断軸を整理してから稟議書を書く。1枚サマリーのドラフトを共有して、「この説明で決裁者は納得しますか」と聞く。決裁者目線でのレビューは、社内では得られない視点を提供する。
逆に、相談役に「選んでください」と委任するのは避ける。判断は自社、相談役は意見提供、という線引きを崩すと、責任の所在が曖昧になる。最終判断は自社が下す、というルールを保ち続けると、相談役との関係も健全に続く。
月数万円の保険として
外部相談役の月額契約は、判断ミスを減らすための保険として捉えると、費用対効果が見える。「本来は5000万でやるべき案件を3500万で発注できた」「失注してもいい案件を見極めて、無理筋の稟議を出さずに済んだ」のような成果が、年に1回でもあれば、月数万円の支出は十分に回収される。
兼任情シスが社内で孤独に判断するより、外部相談役と週1〜2回の会話で意思決定の質を担保する方が、長期的なコストも社内ストレスも下がる。「相談できる相手がいる」という安心感そのものが、業務の質と継続性を支える。
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