システム開発を外部の開発会社(ベンダー)に発注する際、「エンジニアが専門用語ばかり使って、話が噛み合っているのか不安だ」「こちらの要望を伝えたはずなのに、出来上がるシステムがイメージと違うのではないか」と感じたことはないでしょうか。
壁は技術ではありません。同じ日本語を話しているのに意思疎通がうまくいかないのは、どちらかの能力の問題というより、「ビジネスの言葉」と「システムの言葉」を翻訳する機能が働いていないためです。ITの専門知識がないからとエンジニアに丸投げすると、現場の業務に合わないシステムができあがり、多額の投資が無駄になります。
なぜ発注側のコミュニケーションが重要なのか
システム開発が失敗し、大規模な手戻りやスケジュールの遅延(炎上)を引き起こす原因をたどっていくと、エンジニアの技術力不足よりも「発注側と開発側の認識のズレ」に行き着くことがほとんどです。
危ないのは丸投げです。「ITのことはよくわからないからプロにお任せする」と預けてしまう発注側は多いのですが、開発会社はシステムを作る技術のプロであって、あなたの会社のビジネスモデルや現場の細かいルールまで最初から知っているわけではありません。業務の目的や背景を共有せずに「在庫管理システムを作ってほしい」と機能のリストだけを渡すと、次のリスクが高まります。
- エンジニアは「言われた通りに」作るため、現場の使い勝手が考慮されない
- 開発途中で認識のズレが発覚し、大がかりな作り直しと多額の追加費用が発生する
- 何が完成のゴールなのかお互いに曖昧なまま進み、プロジェクトが長期化する
システム開発は、自社の業務を改善するために行うものです。業務を最も理解しているのは発注側です。だからこそ発注側が当事者意識を持ち、開発初期からエンジニアと密にコミュニケーションをとる協力体制を築けるかどうかが、そのまま成否を決めます。
エンジニアとの会話で押さえるべき基礎知識
プログラミングの勉強は要りません。身につけるのは「伝わる依頼」の出し方です。
要望が正しく伝わらない最大の原因は、発注者が「機能(What)」だけで指示を出し、その背景にある「文脈(Why)」を伝えていないことにあります。エンジニアは物事を抽象化してシステムに落とし込む習性があるため、背景を知らないと現場の実態に合わない仕組みを作ってしまいます。会話では次の3点を意識してください。
- 「ユーザーストーリー」で語る 「入力画面が欲しい」で止めず、「手袋をした倉庫作業員が、在庫を素早く減らすために、スマートフォンで入力したい」と具体的な背景や目的をセットで伝えます。
- 専門用語がわからない時は正直に聞く エンジニアの言葉が理解できない時は、知ったかぶりをせず「その機能は、自社のビジネスにどんな影響がありますか?」「ユーザーができることで説明してください」とリクエストします。優秀なエンジニアなら、平易な言葉に翻訳して説明してくれます。
- 解決手段はプロに任せる 「ボタンの色を赤にして(How)」という細かい指示は控え、「この画面で一番重要な操作だから目立たせたい(Why)」という目的を伝えて、最適な手段の提案を引き出します。
「なぜそれが必要なのか」を徹底的にすり合わせると、エンジニアは作業者から、共に課題を解決するパートナーへ変わります。
▶ 詳しくはこちら:エンジニアとのコミュニケーション:経営者が理解すべき基礎知識
進捗管理で経営者が見るべきポイント
最も危険なのは、「進捗率90%です」といった書類上の数字やガントチャート(工程表)だけを見て安心してしまうことです。技術的なタスク(データベース構築やサーバー設定など)がそれぞれ進んでいても、いざ繋ぎ合わせたら全く動かず、納品直前にトラブルが発覚する。珍しくありません。
進捗のブラックボックス化を防ぐには、数字ではなく「実際に動くもの」で判断してください。
- 1〜2週間ごとの「週次デモ」を実施する 月1回の書類報告に代えて、短い期間ごとに定例ミーティングを設定し、その期間に完成した「動く画面(デモ)」を実際に見せてもらいます。
- ビジネス価値で進捗を管理する 「データベースの設計が終わった」という技術の単位を、「ユーザーが商品を登録できるようになった」というビジネスの価値の単位に置き換えて確認します。
- 悪いニュースを歓迎する システム開発にトラブルは付き物です。「順調です」という報告ばかりの時は逆に疑い、「今一番困っている課題は何ですか?」とあえて聞き出すことで、手遅れになる前に問題を共有してもらいます。
動くものを見せない限り進捗はないとみなす。この厳しさが、発注側の技術です。
▶ 詳しくはこちら:システム開発の進捗管理:経営者が確認すべき3つのポイント
「作ったのに使われない」を避けるには
数千万円を投じてシステムを完成させたのに、現場のスタッフが「操作が難しくて使いにくい」と敬遠し、結局は以前の紙や表計算ソフトでの運用に戻ってしまった。よくある話です。
原因は開発会社との対話だけにありません。自社の「現場(システムを実際に使う人々)」との対話が不足しているときにも起きます。避けるには、社内展開や活用推進まで見据えた計画と対話が要ります。
- 現場のITリテラシーや制約を理解する ユーザーはITの知識があるか、UIについて理解しているか、ドメインについて知っているのか、薄暗い場所で使うのか、立ち作業で使うのか、高齢のスタッフが多いのかなど、現場特有の環境や制約を事前に調査し、システム設計に反映させます。
- 開発段階から現場のキーマンを巻き込む 完成品を「これを使ってください」と押し付ける前に、プロトタイプ(画面の動きを確認できる試作品)の段階で現場の担当者に触ってもらい、フィードバックをもらいます。
- 当事者意識を持たせる 現場の意見をシステムに反映させることで、「自分たちが一緒に作ったシステムだ」という意識を持ってもらい、導入時の心理的ハードルを下げます。
システムは、現場で使われて初めて価値を生みます。社内外のステークホルダー(利害関係者)と価値観をすり合わせる丁寧なコミュニケーションが求められます。
▶ 詳しくはこちら:「作ったのに使われない」ことを避けるための機能のフィルタリング方法
生成AI時代の開発スピードとコミュニケーション
開発は速くなりました。近年、生成AI(人工知能)の進化によって、システム開発のプロセスは劇的に加速しています。従来なら数週間から数ヶ月かかっていた初期の画面イメージやプロトタイプの作成が、早ければ数日、あるいは1〜2週間程度で「データが入って動くもの」として確認できるようになりました。
このスピードをビジネスの成果に結びつけるには、発注側のコミュニケーションや意思決定のスピードも合わせて変える必要があります。
- 最初から完璧な仕様書を作ろうとしない 言葉や書類で延々と議論する時間を削り、まずはAIを活用して超高速で作られた「荒削りなプロトタイプ」を土台に議論をスタートさせます。
- 実物を触って素早くフィードバックする 出来上がったプロトタイプを実際の業務に当てはめてみて、「ここは違う」「こういう例外パターンもある」と、言葉では気づけなかったズレを早期に発見し、エンジニアに即座に伝えます。
- 細かく軌道修正を繰り返す 1〜2週間という短いサイクルでデモを確認し、その都度フィードバックを返すことで、大規模な手戻りを防ぎながら理想のシステムへ近づけていきます。
開発のスピードが速くなった分、発注側がいかに早く実物を確認し、ビジネスの目線で的確な判断とフィードバック(なぜそうしたいのか)を返せるか。これが生成AI時代の受託開発を成功させる最大の鍵になります。
▶ 詳しくはこちら:生成AI受託開発、どれだけ早くできるのか
まとめ:パートナーとして協働するために
基本を振り返ります。
- システム開発の失敗の多くは、技術力より発注側と開発側の認識のズレから生じる
- エンジニアには機能(What)に加えて、誰が・なぜ使うのかというビジネスの背景や目的(Why)を伝える
- 進捗管理は書類のパーセンテージを信じず、1〜2週間ごとの「動くデモ」で機能単位に確認する
- 作ったのに使われない事態を防ぐため、開発の初期段階から現場スタッフにプロトタイプを触ってもらい対話を重ねる
- 生成AIによる高速な開発スピードを活かすため、実物を土台にして素早くフィードバックを返す体制をつくる
システム開発は、お金を払って商品を「買う」行為ではありません。エンジニアと一緒に自社の業務改善ツールを「作り上げる」プロジェクトです。彼らを自社の課題を解決するパートナーとして扱い、徹底的に「なぜ(目的)」をすり合わせる対話が、発注側にとってもっとも強力な技術になります。
Beekleでは、ITの専門知識がない経営者や発注担当者の皆様に寄り添い、エンジニアとの間に立ってビジネスの目的を的確に翻訳し、スムーズなプロジェクト進行をサポートする伴走支援を行っております。開発会社とのコミュニケーションに壁を感じていたり、現在の進捗に少しでも不安があったりする場合は、お気軽にご相談ください。