「検討中」と言われた3週間で、実際は何が起きているのか
ベンダー側から見ると「提案後、3週間返事がない」案件は、典型的に「検討中」のラベルが貼られたまま動かない。発注側の決裁者から見ても「担当者に任せている、報告を待っている」状態。両者から見ると、案件は静かに進行中のように映る。
実際に発注側の社内で起きているのは3つのパターンのいずれかで、ほとんどの場合は担当者個人がボールを持ったまま動けなくなっている。担当者は外部に「進んでいない」と報告するインセンティブがない。決裁者には「順調です」と言うか、何も言わない。ベンダーには「上に確認中です」と返す。3週間が経ち、案件は静かに終わる。
本記事では、3週間沈黙の中で実際に起きている3パターンと、決裁者として案件を死なせないための具体的な介入手順を整理する。
パターン1: 稟議書が書けず止まっている
もっとも多いパターンが、担当者が稟議書を書き始められない状態だ。提案書はベンダーから受け取った。社内の稟議書テンプレも開いた。だがテンプレの空欄を埋める情報が手元に揃っていない。
- ROI試算の欄:ベンダー提案にはROIの数字があるが、自社のどの数字と紐付けるかが分からない
- 競合比較の欄:1社の提案しか取っていない、あるいは2社目の提案がベンダーごとに条件が違って比較できない
- リスクの欄:ベンダー失敗時の代替案、撤退条件が書かれていない
- 運用体制の欄:導入後の社内運用担当が決まっていない
担当者は「埋まっていない欄」をひとつずつベンダーに問い合わせる工数を取れない。質問するために自分の中で整理が必要だが、整理の仕方も分からない。結果として、稟議書のドラフトファイルが3週間開かれないまま放置される。
このパターンの典型は「初めての稟議を任された担当者」だ。GAS経験があるという理由でDX担当に任命された、新設のDX推進室の若手、コンサル契約から始まったため社内決裁を経験していない、といった担当者が抱え込みやすい。
パターン2: 決裁者が判断材料を持っていない
2つ目のパターンは、稟議書は書かれているが決裁者の机で止まっている状態だ。決裁者から見ると、稟議書に書いてある数字や論理が「自分の判断軸と噛み合わない」と感じている。
- 稟議書のROIが、決裁者の見ている経営指標と紐付いていない(売上ベースか、利益ベースか、月次キャッシュフローか)
- 「他社事例があります」と書いてあるが、自社の業務とどう違うか・同じかが書かれていない
- 競合比較が機能比較になっており、ベンダー選定の本当の判断軸(スピード・体制・撤退可能性)が見えない
- 担当者がベンダーから直接聞いた感触や懸念が、稟議書に反映されていない
決裁者は稟議書を差し戻したいが、「何を直してほしい」を言語化するのが難しい。「もう少し検討して」「他社も比較して」と曖昧に返すと、担当者は「全部やり直し」と受け取る。差し戻しが続くと案件は実質的に止まる。
この状態を解消するには、決裁者の判断軸を稟議書フォーマット側に組み込む必要がある。決裁者が普段見ている経営指標と紐付けたROI、撤退可能性の評価、ベンダー比較の判断軸を、最初から稟議書テンプレに入れる。
パターン3: 担当者が説明する自信がない
3つ目のパターンは、稟議書は書ける、決裁者の判断軸も分かる、だが担当者が決裁者の前で説明する自信がない状態だ。技術的な質問への準備、想定問答、関連部署からの差し戻しへの回答、これらを揃える前に決裁者の前に立つことを担当者が避けている。
具体的には以下のような準備不足が背景にある。
- セキュリティ要件への回答:情シスから「これクラウドに上げるのか」と聞かれたときの想定問答がない
- 運用体制への回答:「導入後、誰が運用するの」と聞かれたときの社内体制案がない
- 失敗シナリオへの回答:「これダメだったらどうするの」と聞かれたときの代替案がない
- 関連部署からの懸念:「他部署の業務に影響しないか」を確認できていない
担当者は「決裁会議で詰められたら回答できない」状態を避けたい。社内的な評価、特に決裁者の信頼を失うリスクが大きい。担当者にとっての最大の恐怖は「自分が責任を取らされる」「上司を説得できなかった」というラベルが残ることだ。
介入1: 担当者と一緒に稟議の壁打ちをする
3パターンのいずれにも効く介入の1つ目が、稟議書の壁打ちだ。決裁者が30分時間を取り、担当者と一緒に稟議書のドラフトを開く。
- 埋まっていない欄を特定する
- 埋めるために必要な情報を、ベンダーから取るもの・社内から取るもの・自分で書くものに分類する
- 担当者が一人で抱え込んでいた質問を、決裁者の側から「これは私が経理に確認する」「これは情シスに聞いてくる」と巻き取る
担当者の心理的負担を下げるために重要なのは、決裁者が一部のボールを持つことだ。「稟議書を書け」と言うだけでは担当者は動けない。一緒に書く相手として決裁者が並ぶと、案件は動き始める。
介入2: 決裁者に直接届く材料を作る
2つ目の介入は、稟議書とは別に1ページサマリを作ることだ。経営指標と紐付けたROI、撤退条件、判断軸を3要素に絞った1枚の資料を、担当者経由ではなく決裁者の手元に直接届ける。
- ROI:自社の経営指標(売上・利益・月次キャッシュフロー)でいくらの効果か、いつ回収できるか
- 撤退条件:このプロジェクトをいつ・どんな条件で止めるか、止めた場合の損失額
- 判断軸:複数案件のなかでこれを優先する理由、別の選択肢を取らない理由
1ページサマリが決裁者の机に届くと、担当者経由の伝言で曖昧になっていた判断材料が直接届く。決裁者は判断できる状態になる。担当者にとっても「自分の説明力に頼らずに済む」サポート材料になる。
介入3: ベンダーを社内に招くタイミングを決める
3つ目の介入は、ベンダーを社内に呼ぶ判断を決裁者がすることだ。担当者がベンダーを社内に招くのを渋っている場合、その理由を聞く。「忙しいので」「面倒なので」が表面の理由でも、本質は「自分のフィルターを通したい」「決裁者と直接話されると自分のコントロールが効かなくなる」という不安だ。
担当者の不安を取り除いた上で、必要な商談には決裁者を呼ぶ運用を最初に決めておく。ベンダー側のキーマン(提案責任者、技術責任者)に、決裁者の判断軸を直接伝える機会を作る。担当者経由の3週間の沈黙よりも、決裁者同席の30分のほうが案件を進める。
3週間の沈黙は、案件を死なせる前兆
提案後の沈黙が3週間を超えたら、案件はすでに止まっている。決裁者が動かないと、担当者は動けない。動けない担当者は、ベンダーに「検討中」と返し続ける。
- 稟議書が書けない → 担当者と一緒に壁打ちする
- 決裁者が判断材料を持っていない → 1ページサマリを作る
- 担当者が説明する自信がない → ベンダーを社内に招く判断を決裁者がする
3つの介入は、いずれも30分〜1時間で着手できる。担当者を責めずに、決裁者の側から動く。これが「案件を死なせない」決裁者の仕事だ。
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