決裁者が5分で見るのは3点だけ
IT投資の稟議で、決裁者が分厚い提案書を最初から読むことはほぼない。最初の5分で見ているのは3点だけだ。「なぜ今やるのか」「いくらでいくら返るのか」「なぜこの会社に頼むのか」。この3点が1枚で答えられていれば、稟議は早く通る。逆に、3点のどれかが曖昧だと、決裁者は判断保留にして「もう少し詰めて」と差し戻す。差し戻し1回で2週間、2回で1ヶ月遅れる。
本記事では、稟議が通る1枚サマリーのテンプレートを、3つの項目それぞれに何を書くか、NG例も含めて解説する。1枚サマリーは、自分で全部書く必要はない。ベンダーに材料を提供してもらえば、半分は埋まる。
ポイント1: なぜ今やるのか
決裁者の最初の問いは「来期でいいのではないか」だ。今やる理由が立っていないと、ほぼ確実に保留される。今やる理由は3つのパターンに分類できる。
1つ目はリスク回避。「現行システムのサポートが来年6月で切れる」「セキュリティ要件の改定が来年4月施行で、現状では非対応」のように、外部要因で動かざるを得ない期日がある。2つ目は機会損失。「競合A社が3月にAI見積もりサービスを開始、当社の引き合いが2月から落ち始めている」のように、放置するほど機会損失が広がる。3つ目は投資効率。「現在の補助金枠が9月締切」「ベンダーの年度末割引が3月まで」のように、今やった方が安く済む。
NG例は「DXのため」「業務効率化のため」だけで終わる書き方。これは「いつか」やる理由であって、「今」やる理由ではない。具体的な期日と、その期日を逃した時のコストを数字で書く。
ポイント2: いくらでいくら返るのか
2つ目の問いは「投資対効果」だ。決裁者が見たいのは、初期費用とランニング費用の合計、回収シナリオ、回収できなかった時の撤退コストの3つ。
金額表記は、月次キャッシュフローで書くと決裁者が判断しやすい。「初期費用400万、年間ランニング120万」より、「月10万円のサブスク」+「初期費用400万を3年で償却すると月11万、合計月21万」の方が稟議書のフォーマットに乗りやすい。回収シナリオは、業務時間削減を金額換算する。「見積もり作成業務、月60時間 × 時給5000円 = 月30万」のように、削減時間と単価を分けて書く。
NG例は「業務効率化により大幅なコスト削減が見込めます」のような定性表現。回収シナリオの数字が無い稟議は、決裁者にとって「願望」に見える。撤退コストも書いておくと信頼性が増す。「契約は3年、途中解約は残月分の50%」のように、最悪ケースの金額を1行で示す。
ポイント3: なぜこの会社に頼むのか
3つ目の問いは「なぜこのベンダーなのか」だ。決裁者は、ベンダー選定が情緒的になっていないかをチェックする。相見積もりを取ったか、選定基準は明確か、選定基準に対してこのベンダーが最適な根拠は何か。
選定根拠は3つの軸で書く。適合性(自社の業種・規模・既存システムへの対応実績)、コスト(同等機能の他社比較)、継続性(撤退リスクの低さ、サポート体制)。3社の比較表を1枚サマリーの裏面に付けるだけで、決裁者の安心感が変わる。
NG例は「営業担当の対応が良かった」「弊社の社風と合う」のような主観評価のみ。決裁者は感覚論を判断材料にできない。「他2社は固定見積もり、本社は実費精算で柔軟」のように、契約条件の差で書く。
ベンダーに材料を作らせる
1枚サマリーを自分で全部書こうとすると時間がかかる。実は、3項目のうちポイント2の半分とポイント3はベンダーに作ってもらえる。商談時に「稟議用に1枚で説明したいので、月次キャッシュフローと撤退コストを数字で出してください」「競合2社との差別化ポイントを、機能ではなく契約条件で整理してください」とお願いすればいい。
真っ当なベンダーは、稟議通過率を上げるための資料作成に慣れている。むしろ「稟議で何を書けばいいか」を聞いてくる側だ。担当者が一人で抱え込まず、ベンダーを「稟議書の共同執筆者」として使うのが、最短ルートになる。
1枚サマリーの型
A4縦1枚に収まる構成は以下が標準だ。上段に「投資の目的・対象業務・成功指標」を3行で。中段に「ポイント1:なぜ今やるか」「ポイント2:いくらでいくら返るか(月次キャッシュフロー表)」「ポイント3:なぜこの会社か(3社比較の要約)」をそれぞれ4〜5行ずつ。下段に「リスクと対処」「決裁いただきたいこと」を箇条書きで。
細かい技術仕様や機能比較は、サマリーには載せない。決裁者は技術仕様を読まない。読みたい場合は別紙を要求してくる。1枚サマリーは「判断のためのインデックス」であって、提案の全体ではない。
稟議は「書類の出来」で通る
稟議の通過率は、提案内容の良さではなく、提案を伝える書類の構造で決まる。良い提案でも、1枚で説明できなければ通らない。逆に、平均的な提案でも、1枚で3点が答えられていれば早く通る。担当者の力量は、技術理解の深さではなく、決裁者の判断軸に合わせて材料を再編集する力で問われる。
1枚サマリーのテンプレートを社内で共有しておくと、IT投資以外の稟議でも応用が利く。設備投資・採用・新規事業のいずれも、決裁者が見るのは同じ3点だ。
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